お隣の美波町(旧・日和佐町)から那賀町にお嫁に来て、子育てをしながらおよそ40年林業に従事なさりました。「いい人に恵まれた」と、何度もおっしゃっていたのが印象に残りました。自然と人を愛するナチュラルな生き方が、とても魅力的な女性です。長年、那賀町に住んでどのように思われているか、女性目線から率直なお考えをお聞きしました。(取材年月 2021年12月)

中野 有子(なかの ゆうこ)

昭和28年、美波町赤松(旧・日和佐町)生まれ。昭和45年、四日市市暁高校中退。昭和46年、結婚。那賀町深森(旧・上那賀町)に住み、3人の子供に恵まれる。子育てをしながら、38年間林業に従事。趣味は、植物を育てること、かずら編み、釣り(鮎、アメゴ)など。

 

――中野さんは、那賀町にお嫁に来られてから、ずっと林業をなさっているのでしょうか?

はい。昭和46年に結婚し、子育てをしながら主人と山の仕事をしてきました。子供は養父母が見てくれました。木が高値で売れた昔は、お手伝いの方を雇うほど忙しかったです。

ですが、その後、木材の価格が下がってきて、うちのような小規模では、生計を立てていくのが難しくなりました。そこで、途中から木頭森林組合で仕事をさせていただくことになりました。20年ほど前でしょうか。主人は、スクールバスの運転手になりました。

――いきなりのご質問になるのですが、いま林業でやっていくのは難しいのでしょうか。

そうですね・・・。小規模のみならず、沢山の山を持っているところも、難しくなっていると思います。正直、補助がないと間伐するのも厳しいでしょう。海外から安い木材も入ってきていますし。最近は、コロナ禍であまり入らなくなったそうですが・・・。木頭森林組合には、最初は20人ほどの女性がいましたが、最後は2人になりました。女性が林業に携わるのも大変なのです。

――林業のことや、女性が林業に携わることについて教えていただけますか?

林業の仕事の流れ(※「皆伐」での仕事の流れになります。「自伐型」林業ではこの流れはありません)をご説明します。

まず、冬の間に、樹木の苗を植えるために、枝葉や雑草などを除去し、山の地面を整備する作業「地拵(じごしらえ)」を行います。春になったら、苗木の「植栽(植え付け)」を行うのですが、その前に大事なことをしないといけません。それは、「網張」です。

――シカなどの獣害対策でしょうか?

はい、そうです。シカやウサギが苗をどんどん食べてしまいます。安い網では噛んで穴を空けられるので、強度の高い網を買わないといけません。獣害対策が出来てから、苗の植え付けを行います。植え付けてから5年ほどは補助があります。

――植え付けを行った後は、どんな作業でしょう?

夏に「下草刈り」を行います。これが、とても暑い時期に行うのです。今は、屋外作業用の空調服がありますが、昔はありませんでした。ちなみに、昔は鎌で刈っていましたが、今は、男女とも草刈り機で下草を刈ります。鎌より多くの面積が刈れます。

その後、秋には「間伐」を行います。余分な枝を落とすのですが、昔は、のこぎりを使っていたそうです。その後、チェーンソーが出てきたのですが、重たいチェーンソーを女性が持つのも大変です。私がチェーンソーを使い始めた頃、女性でチェーンソーを持つ人はほとんどいませんでした。今でも少ないと思います。ちなみに、私がチェーンソーを初めて持ったのは50歳を超えてからでした。50の手習いです(笑)。

――環境や国土を守るために林業が大事なことは、皆さん気付いてきていると思います。

それで、公的に「林業アカデミー」などで林業従事者を増やす施策をとっていますが、人の出入りが激しいです。根気よく仕事を覚えないといけないですが、なかなか厳しいのでしょう。

でも、私は山の仕事がとても好きです。それは、山に行くと、自然の色々なモノに出逢えるし、それらは全て自分の趣味に繋がっているからです。

――例えば、どういうことでしょう?

数は少ないですが、松茸採りが楽しみの一つです。また、このカゴは、「つづらかずら」で編んでいます。自然の植物で作品が作れるのは幸せです。

かずらには色々な種類があるのですよ。例えば、「祖谷のかずら橋」に使っているかずらは、もっと太く、このあたりには生えていません。那賀町だと木沢や木頭に行けばあるでしょうか。

「つづらかずら」は位が高いそうですよ。なので、昔の方は、このかずらでイノシシの足を縛ったりしてはいけないと、おっしゃっていました。

――それは初めて知りました。

自然のいろいろなモノに興味があります。自分の持っている興味が、自然全体と言いますか。こういう想いを子供や孫に伝えていきたいですし、皆に自然を楽しんで欲しいと思っています。

誰かが遊びに来てくれたら、私の持っている知識や経験から、たくさんのことを教えてあげたいです。でも、まずは子供、孫、そして、その友達たちです。夏は皆で前の川で泳ぎ、お盆には鮎の網漁もしているのですが、長男長女、孫、近所の方、友人と沢山の方で鮎捕りをします。

人が寄りやすい環境を作るのが、私の役目だと思っています。そして、それが後の代まで続いて欲しいです。

――素晴らしいお考えですね!

こういう考えになったのは、私の義父が素晴らしかったからです。とても明るくて朗らかな方でした。私が料理に失敗しても、美味しい美味しいと言って食べてくれました。結婚前は、家族が多いところへお嫁に行ったら苦労するよ、と周囲から言われたのですが、そんなことはありませんでした。親戚も皆さん、いい方です。

私は養父に本当に大事にしていただきました。なので、主人とも、養父のように周囲にあたたかく接したいね、といつも話しています。皆がいつでも帰れる場を作りたいです。

――中野さんの笑顔はとても印象的です。お話の間中、ずっと微笑んでいらっしゃりますものね。中野さんのお人柄が、周囲に優しい方を引き寄せている気がします。

この人生、本当に人に恵まれました。職場もいい方ばかりです。

――那賀町のいいところは、どういうところだと思われますか?

人でしょうか。生活するには、人間関係が一番大事ですものね。私がお嫁に来たとき、お隣の方にもとても親切にしていただきました。花や野菜の苗をたくさんいただき、育て方も教えていただきました。私も、そうやって周囲の方に親切にしたいです。

――これからどんなことをなさりたいですか?

好奇心旺盛なので、新しいことにもチャレンジしていきたいです。最近では、スモークツリーに興味があって、趣味で植えたら、出荷できるぐらい増えました。珍しい花が好きなのですが、子供たちや孫もよく買ってきてくれます。

――とても素敵ですね。ご家族も朗らかなのだろうと想像します。最後に、読者の方へメッセージを一言お願いします。

子供や孫たちに、「ばあちゃんは、多趣味で行動力が男っぽい」とよく言われていますが、ぜひ気軽に遊びにいらしてください。できる限りのおもてなしをいたします。この前、鮎捕りでNHKさんに取材いただきましたが、カメラマンの方がここを気に入ってくれて、たまにご連絡くださいます。そんな感じで気軽にご連絡いただきたいです。

――私もまた遊びに来させてください。本日は、ありがとうございました!

▼中野さんの素敵な生活ぶりが伺われます。

山での暮らしは幸せいっぱい。感謝の想いで日々を楽しむ。◆中野有子(山師・木頭森林組合社員)

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